吉田のうどんとは? 山梨・富士吉田に根付く郷土料理
富士山の北麓、標高約800メートルの冷涼な気候と火山灰土壌に囲まれた山梨県富士吉田市。この土地で長年にわたって受け継がれてきたのが、「吉田のうどん」と呼ばれる郷土料理です。
特徴的なのは、何といっても“日本一硬い”とも称されるほどの極太で強靭なコシのある麺。噛みしめることで小麦本来の風味がじんわり広がり、素朴ながらも力強い味わいを楽しめます。
吉田のうどんは、稲作に適さない土地で栄えた「粉食文化(こなしょくぶんか)」の象徴であり、ほうとうやおざらと並ぶ、山梨県を代表する麺料理の一つです。とくに富士吉田市では、単なる食事を超えて、「ハレの日のごちそう」「地域のつながりの象徴」として大切にされてきました。
うどんというと全国どこにでもあるように思われがちですが、「吉田のうどん」は地元の人々が誇りを持ち、家庭や店ごとに味や作り方を継承してきた、まさに“ローカルの魂が宿る麺料理”です。
名称についても、「吉田うどん」ではなく、「吉田のうどん」と“の”を入れるのが正式とされており、ここにも地域へのこだわりと誇りが表れています。
現代では、市内に40軒以上の専門店が軒を連ね、「吉田のうどんマップ」も配布されるなど、観光と食文化の両面で注目される存在に。富士山観光とセットで楽しめる“ご当地グルメ”としての地位も確立しています。
誕生の背景と歴史|富士山信仰と粉食文化の融合
吉田のうどんのルーツには、山梨・富士吉田という土地の信仰・風土・生活文化が色濃く反映されています。ただの麺料理ではなく、この地域独自の歴史と営みによって生まれ、育まれてきた郷土の味なのです。
富士山信仰と参詣文化

江戸時代、富士山を神聖な霊峰として崇める「富士講」が全国に広まり、多くの参詣者が富士吉田の地を訪れました。地元住民はこうした信仰者を受け入れるため、住居の一部を「御師(おし)」宿として開放し、宿泊や食事を提供していました。
その中で提供されたのが、地域で親しまれていたうどん。参詣の疲れを癒す栄養源として、また“信仰の旅を支える特別な料理”として、うどんは重要な役割を果たすようになります。こうして吉田のうどんは、信仰と結びついた地域文化の一部として定着していきました。
粉食文化の発展
富士吉田市周辺は、標高約800mの冷涼な気候と火山性土壌のため、古来より稲作には適していない土地でした。そのため、代わりに小麦や雑穀を使った「粉食文化(こなしょくぶんか)」が発展し、ほうとう、すいとん、うどんといった料理が日常の家庭で作られるようになります。
吉田のうどんは、こうした粉食文化の集大成ともいえる存在であり、長年にわたり地元の食卓を支えてきました。
地域産業と家庭文化の影響

江戸時代末期から昭和初期にかけて、富士吉田市では養蚕や織物業が盛んでした。これらは主に女性の仕事とされる一方で、炊事やうどん作りは男性の役割とされていたという伝承があります。力強く練り上げる工程を担った男性たちの手によって、あのコシの強い極太麺が誕生したのです。
これは、他地域のうどん文化とは異なる、「男の料理」としての系譜を物語るユニークな文化背景でもあります。
ハレの日のごちそうとして
吉田のうどんは、普段の食事であると同時に、冠婚葬祭や祭りなど「ハレの日」のごちそうとしても振る舞われてきました。人が集う場でふるまわれるうどんには、地域の人々のもてなしの心と絆が込められており、食文化としての精神的な深みも備えています。
家庭ごとの多様性と継承
もともと家庭料理として育まれてきたため、吉田のうどんには「一家に一味」とも言える多様性が宿っています。麺の太さ・硬さ、つゆの味付け、具材の組み合わせなど、各家庭や店舗ごとに異なり、それぞれが独自の伝統と味を受け継いでいます。
吉田のうどんは、「富士山信仰」と「粉食文化」が融合し、地域の自然・産業・家庭文化が重なり合って生まれた、まさに富士吉田を象徴する郷土料理といえるでしょう。
硬くて太い!麺とつゆの特徴

吉田のうどん最大の特徴は、何といってもその極太で非常に硬い麺にあります。その歯ごたえは「日本一硬いうどん」とも評されるほどで、初めて口にした人はその強烈なコシに驚かされることも少なくありません。
噛むほどに広がる小麦の風味
一般的なうどんが“のど越し”を楽しむものであるのに対し、吉田のうどんは“噛んで味わう”うどんです。手打ちで力強く練られた麺は、噛みしめることで小麦本来の風味がじんわりと広がり、食べ応えも抜群。シンプルな味付けでも満足感があり、腹持ちの良さも魅力のひとつです。
太さと硬さの由来
この異例ともいえる硬さと太さは、単なる嗜好の結果ではありません。前述の通り、吉田のうどんは男性がうどん作りを担ってきた文化から生まれたとされ、力強く練られ、しっかりと踏みしめられた麺は自然とコシが強く、太くなっていったといわれています。
また、長時間茹でてもへたらない麺は、集まりの場で大鍋で調理される「ハレの日料理」としても理にかなっていたのです。
醤油×味噌のW仕立てのつゆ
吉田のうどんのもう一つの魅力は、その個性豊かなつゆ。出汁は煮干しや椎茸、昆布などから丁寧に取り、味付けには醤油と味噌をブレンドしたものが主流です。味噌のコクと醤油のキレが絶妙に絡み合い、濃厚ながらも素朴な風味に仕上がっています。
店舗によっては、味噌のみ、または醤油のみを使うこともあり、店ごとの味比べができるのも吉田のうどん文化の楽しみ方のひとつです。
具材と薬味|キャベツ・馬肉・すりだねの個性
吉田のうどんは、麺やつゆだけでなく、具材と薬味の個性にも強い郷土色があらわれています。なかでも「キャベツ」「馬肉」「すりだね」は、吉田のうどんを語るうえで欠かせない三大要素です。
キャベツ|地元産のシャキシャキ食感

最大の特徴は、たっぷりの茹でキャベツが具材として使われていること。全国的に見ても、うどんにキャベツを組み合わせる例は稀で、吉田のうどんならではのスタイルです。
キャベツは地元・富士北麓の冷涼な気候で育つ高原野菜として知られ、新鮮で甘みがあり、シャキシャキとした食感が硬い麺との相性抜群。加えて、ビタミンUなどの成分が消化を助ける効果もあるとされ、理にかなったトッピングといえます。
馬肉(サクラ肉)|地域の暮らしと共に

もう一つの代表的な具材が、甘辛く煮込まれた馬肉(さくら肉)。富士吉田市周辺では、馬はかつて農耕や運搬、富士登山にも用いられており、人々の暮らしに密接に関わってきた動物です。
そのため、馬肉は単なる食材以上に、地域の歴史と文化を映す象徴的な存在でもあります。現在でも地元の肉屋やスーパーでは馬肉が一般的に販売されており、馬刺しや馬もつと並び、うどんの具としても広く親しまれています。
もちろん、店によっては豚肉や牛肉を用いる場合もありますが、馬肉を使う店は「吉田のうどんらしさ」を大切にしていると捉えられることが多いです。
すりだね|辛味と香りの“味変”アイテム

吉田のうどんを語るうえで欠かせない薬味が、「すりだね」と呼ばれる独自の辛味調味料です。
ごま油で炒めた唐辛子に、ごま・味噌・山椒などを加えて練り上げたもので、各店・各家庭ごとにレシピが異なる“秘伝の味”とも言われます。
うどんに加えると、スパイシーな辛味と香ばしさが加わり、シンプルな味わいにぐっと奥行きが生まれます。初めての方はまずそのままの味を楽しみ、途中からすりだねを加えて味の変化を楽しむ“二段構えの食べ方”がおすすめです。
キャベツ・馬肉・すりだね——この三つの要素が、吉田のうどんに唯一無二の個性と地域文化の深みを与えています。
それぞれがこの地の風土と暮らしに根差した存在であることも、郷土料理としての価値を高めているのです。
吉田のうどんの食べ方・冷やしうどんの魅力

吉田のうどんを本当に味わうには、“噛んで味わう”という食べ方の基本を知っておくことが重要です。その強靭なコシと豊かな風味は、他のうどんとは一線を画す体験をもたらしてくれます。さらに、夏場には「冷やしうどん」という季節限定の楽しみ方も根強い人気を誇っています。
初心者は温かいうどんから
初めて吉田のうどんを食べるなら、まずは温かいうどんがおすすめです。熱いつゆに浸された麺は、少し柔らかくなり、硬さが和らぐため、初心者でも食べやすくなっています。
また、温かいうどんは具材の旨味がつゆに溶け出しやすく、全体的にまろやかで深みのある味わいが楽しめるのも魅力です。
すりだねで味変を楽しむ
卓上に置かれた「すりだね」を少しずつ加えながら、自分好みの辛さや風味に調整していくのが地元流。唐辛子やごま油、山椒などを炒めて作られるこの調味料は、味にパンチを加える“味変アイテム”として、後半のアクセントにぴったりです。
夏の人気メニュー:冷やしうどん
暑い時期には、「冷やしぶっかけ」や「冷やしつけうどん」といったメニューが人気です。茹でた麺を氷水でしっかりと締めることで、より一層のコシと歯ごたえが際立ちます。
冷えた麺にキンと冷えたつゆをかけ、キャベツや人参などの具材をのせて味わう冷やしうどんは、清涼感と満足感を兼ね備えた夏の定番です。
途中でごまや刻みネギ、すりだねを加えることで、味に変化をもたらしながら最後まで飽きずに食べられます。
おいしく食べるコツ
- 茹でたてを食べるのが基本!
麺の風味とコシを楽しむには、茹でたてをすぐに食べるのがベスト。冷やしの場合も、茹でた直後にしっかりと冷水で締めるのがコツです。 - 麺の硬さは調整可能
店によっては茹で時間を加減できるところもあり、やわらかめや硬めを指定できることも。自分好みの硬さを見つけるのも楽しみの一つです。 - 季節や気分でバリエーションを
冷やし以外にも、釜揚げ・煮込み・つけうどんなど、食べ方のバリエーションも豊富。具材やつゆの違いによって、何度でも新鮮な味わいに出会えます。
吉田のうどんは、温かくしても冷たくしても、最後までしっかり“噛みしめて楽しむ”うどん。
その食べ方一つひとつに、地域に根ざした食文化の知恵と工夫が息づいています。
作り方・レシピ|家庭でも楽しめる郷土の味
吉田のうどんは、シンプルな材料と素朴な工程で作られるため、家庭でも本格的に再現しやすい郷土料理です。強いコシのある麺、甘辛い肉、シャキシャキのキャベツ、そして“すりだね”と呼ばれる辛味調味料。ひとつひとつに、富士吉田の風土と文化が息づいています。
基本の手打ちうどんレシピ(2人前)
材料
- 強力粉:250g
- 薄力粉:170g
- 塩:12g
- 水:160cc
- お好みの具材:キャベツ、にんじん、油揚げ、ネギ、天かすなど
- 馬肉または牛肉(甘辛煮用):100g
つゆ用調味料
- だし:煮干し・昆布・かつお節など
- 醤油・味噌・みりん・砂糖
すりだね(辛味調味料)
- 一味唐辛子・ごま油・味噌・山椒など(分量はお好みで)
麺の作り方
- 塩水を準備
水に塩を溶かし、塩水を用意します。 - 粉を混ぜる
強力粉と薄力粉を混ぜ、塩水を少しずつ加えてスプーンでまとめます。 - 寝かせる
まとまった生地をラップで包み、常温で1.5〜2時間休ませます。 - こねて踏む(コシを出す工程)
ジップロックなどに入れて足で踏み、伸ばしては折りたたむ作業を5回ほど繰り返します。 - 伸ばして切る
生地を5mm厚に伸ばし、5mm幅にカット。折れた部分は丁寧に直しておきましょう。 - 茹でる
たっぷりの湯で10分程度茹で、流水でぬめりを取ったあと、氷水で締めて完成です。
つゆの作り方(吉田流)

- だしを取る
煮干し・かつお節・昆布などを水に入れて中火で煮出します。 - 味付け
醤油と味噌をベースに、みりん・砂糖で甘みとコクを調整。味噌×醤油のブレンドが吉田流の定番です。
具材の下ごしらえ
- キャベツ:ざく切りにして軽く茹でる
- にんじん:細切りにしてさっと茹でる
- 油揚げ:短冊切りにして茹でるか軽く炒める
- 馬肉または牛肉:醤油・みりん・砂糖で甘辛く煮る
- ネギ・天かす・すりだね:仕上げのトッピングに
すりだねの作り方(例)
- フライパンで一味唐辛子、白ごま、粉山椒を軽く炒る
- 味噌とごま油を加えて全体を混ぜ、炒めながら香りを立たせる
- 粗熱が取れたら瓶などに入れて保存可能
※ 店や家庭によって配合は異なり、「自家製のすりだね」が地域の個性を支えています。
お土産・通販麺での作り方(時短アレンジ)
すでに茹で麺や乾麺を通販・お土産で入手した場合は、つゆと具材、すりだねの準備に力を入れるのがポイントです。
- 茹で麺を使う際は、再加熱時にぬめりを取り、氷水で締めるとコシが復活
- 添付つゆがない場合は、醤油・味噌・だしの合わせ調味料で代用可能
- 具材は地元風に:キャベツは必須、肉は甘辛く、仕上げにすりだねを
本格的に手打ち麺から作るのもよし、通販の麺をアレンジするのもよし。
どちらも、吉田のうどんの郷土の味と“噛みしめる楽しさ”を家庭で再現できる魅力的な方法です。
名店紹介と店舗めぐり|うどんマップとマイスター制度
吉田のうどんの本場・山梨県富士吉田市には、50軒以上の専門店が軒を連ねています。それぞれの店が麺の硬さ、つゆの配合、具材、すりだねの味にこだわりを持ち、訪れるたびに新しい発見があるのが魅力です。
名店ピックアップ
店名 | 特徴・おすすめポイント | 所在地(富士吉田市) |
---|---|---|
みうらうどん | 昭和56年創業。煮干しだし×自家製手打ち麺が自慢。肉うどんが定番人気。 | 下吉田1-22-5 |
麺許皆伝 | 有名人も訪れる人気店。やや柔らかめの麺と味噌・醤油ミックスのスープ。かき揚げ天が名物。 | 上吉田東1-4-58 |
手打ちうどん ムサシ | 「日本一固いうどん」との異名を持つ、極太・超コシ系の代表格。魚介系スープが特徴。 | 上吉田6-10-19 |
くれちうどん | すべて手作業の本格派。地元で“昔ながら”の味として親しまれている。 | 上暮地1-18-22 |
山崎家うどん | 味噌仕立てのスープと甘辛い馬肉が特徴。焼肉定食も人気という異色の店。 | 中曽根2-12-34 |
桜井うどん | 素朴でやさしい味わい。地元の常連客で賑わう老舗の一軒。 | ※マップ参照 |
ほかにも「たけ川うどん」「ふもとや」「道の駅富士吉田の軽食コーナー」など、観光客から地元民まで幅広く支持される店が勢ぞろいしています。
店舗めぐりに便利な「うどんマップ」
富士吉田市では、吉田のうどん専用マップを観光協会や案内所、市の公式サイトで配布しています。掲載内容は以下の通り:
- 各店の所在地・営業時間・定休日・駐車場情報
- おすすめメニューや特徴
- スタンプラリーや食べ歩きに役立つレイアウト
さらに近年はスマートフォン対応のデジタルマップも登場しており、観光客でもアクセスしやすくなっています。
「吉田のうどんマイスター」制度
うどん文化を盛り上げるユニークな取り組みが、「吉田のうどんマイスター制度」です。
- 富士吉田市内の全43店舗(2024年時点)をすべて食べ歩いた人だけが名乗れる称号
- 達成者には認定証や記念品が授与され、地元メディアで紹介されることも
- 麺の硬さ、つゆの傾向、具材の組み合わせなど、自分なりの「推し店」を見つける楽しみも
この制度は、地域の食文化振興や観光活性化にもつながる仕掛けとして注目されています。
吉田のうどん巡りは、食べ比べの楽しさだけでなく、地域の人々との出会いや文化に触れる貴重な体験。
マップを片手に名店を巡り、地元の味と心にふれてみてはいかがでしょうか。
⇒富士吉田市観光ガイド「吉田のうどん」
通販・お土産情報|家庭でも再現可能な味
吉田のうどんは、その強いコシと独特の具材が特徴で、現地で味わうのが理想とはいえ、近年では通販やお土産としても手軽に楽しめる商品が充実しています。ご家庭でも、本場の味を再現しやすいセットが多く、ギフトや贈答品としても人気です。
種類豊富な麺セット
通販や店頭で手に入る吉田のうどんには、以下のようなバリエーションがあります:
- 生麺・半生麺・乾麺タイプ
強いコシを再現するため、富士山の水や地元産小麦を使用した本格派。常温保存が可能なものも多く、賞味期限も2~3か月と長めです。 - つゆ付きセットが主流
味噌×醤油ベースの吉田風のつゆが付属しており、温めるだけで本場の味に近づく設計。中には“すりだね”や甘辛煮の馬肉入りのセットも。 - 代表的な商品例
- 吉田のうどん3人前(つゆ付き)
- 平井屋のすりだね付きセット
- 岩田食品製の麺セット(道の駅などでも人気)
- 馬肉・すりだね入りのギフト仕様商品 など
購入先とブランド例
- オンラインショップ
楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonなど大手ECサイトに加え、平井屋、岩田食品などの地元製麺所の公式通販サイトでも購入可能。 - 現地購入スポット
富士吉田市内の道の駅、観光案内所、土産店、スーパーなどでも販売。観光の帰りに買い求める方も多く、山梨土産の定番として親しまれています。
家庭での美味しい再現方法
通販商品を使っても、少しの工夫でより本場に近づけることができます:
- 麺はたっぷりのお湯で茹で、流水でぬめりを取る。冷やす場合は氷水でしっかり締めるとコシUP
- つゆは希釈タイプが多く、温めて使うだけ。味噌×醤油の“吉田ブレンド”を基本に自作も可能
- 具材は定番のキャベツ・馬肉・油揚げ・天かす・ねぎなどを用意
- すりだねは市販でも入手可能。辛味と香ばしさで味の決め手に
手軽に購入でき、長期保存もできる通販セットは、家庭での再現にも、お土産やギフトにも最適。
富士吉田の風土が生んだ郷土の味を、ぜひご自宅でも味わってみてください。
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「吉田のうどん」と「ほうとう」の違い|山梨が誇る二大郷土麺を比較


山梨県には全国的にも珍しい、二つの個性豊かな郷土麺料理があります。それが、富士吉田市を中心に広がる「吉田のうどん」と、甲府市をはじめとする山梨県全域で親しまれる「ほうとう」です。どちらも小麦を主原料とし、山梨の粉食文化を代表する存在ですが、麺の製法・食感・つゆ・具材・食べ方・歴史など、さまざまな違いがあります。
主な違い(比較表)
項目 | 吉田のうどん | ほうとう |
---|---|---|
主な地域 | 富士吉田市周辺 | 甲府市周辺、山梨県全域 |
麺 | 太く非常に硬く、コシが強い。塩を加えて練り、寝かせてから茹でる。 | 平打ちの太麺。塩を使わず、小麦粉と水のみで作る。寝かせずに切る。 |
つゆ | 醤油+味噌の濃いめつゆ(出汁は煮干しなど) | 味噌仕立て。野菜の甘みと旨味が溶け込んだとろみのあるつゆ。 |
具材 | キャベツ、馬肉または豚肉、にんじん、油揚げ、天かすなど | かぼちゃ、じゃがいも、にんじん、きのこ、山菜など季節の野菜たっぷり |
薬味 | すりだね(唐辛子、ごま油、山椒などの辛味調味料) | 薬味はあまり使わないが、好みにより七味など |
食べ方 | 外食文化が主流。専門店で食べることが多く、硬い麺を“噛みしめて”楽しむ | 家庭料理中心。大鍋で煮込み、家族で分け合って食べるスタイル |
料理の特徴 | 強いコシ、シンプルな具材、味変のすりだね | 野菜たっぷりで栄養満点。味噌のコクと煮込みのとろみが特徴 |
歴史・文化 | 富士山信仰・粉食文化の融合。男性が作る伝統、「ハレの日」の料理 | 武田信玄の陣中食説もあり。山梨の家庭で親しまれる日常の郷土料理 |
二つの郷土麺に共通するものと、それぞれの個性
吉田のうどんもほうとうも、山梨の冷涼な気候と火山性土壌によって稲作が難しい地域で育まれた粉食文化の産物であり、小麦をベースにした料理として発展してきました。
しかしその用途や位置づけは異なります。
- 吉田のうどんは、外で食べる“ごちそう”として発展し、すりだねで味変を楽しみながら、力強く噛みしめる麺を味わう「ハレの日の料理」。
- ほうとうは、家庭で日常的に作られる煮込み料理で、味噌のつゆに野菜の甘みが溶け込んだ「日々の滋養食」として親しまれてきました。
同じ山梨でも、地域や文化背景によって大きく異なる麺料理が育まれてきたことは、郷土食の奥深さを感じさせてくれます。
両者を食べ比べてみることで、山梨の暮らしや文化への理解も一段と深まることでしょう。
まとめ|吉田のうどんが映す地域文化と郷土料理の魅力
「吉田のうどん」は、単なるB級グルメやご当地麺ではなく、富士山の麓という独特の風土と、そこに暮らす人々の歴史・文化・生活様式が結晶した“郷土料理”そのものです。
稲作に適さない火山性土壌のなかで育まれた粉食文化。富士山信仰の拠点として栄えた参詣文化。そして、男性がうどん作りを担い、冠婚葬祭などの「ハレの日」にふるまわれてきたという独自の食習慣——。そのすべてが、極太で硬い麺、甘辛い馬肉、シャキシャキのキャベツ、ピリッと辛いすりだねという一杯に込められています。
現代においても、地元では専門店が点在し、「吉田のうどんマップ」や「マイスター制度」などの取り組みによって、地域の食文化が守られ、発信され続けています。さらに、通販やお土産セットの普及により、家庭でも気軽にその味と物語を楽しむことができるようになりました。
同じ山梨県の「ほうとう」とは一線を画す個性を持ちながら、どちらも土地と歴史に根差した誇るべき郷土料理であることは間違いありません。
吉田のうどんを味わうことは、富士北麓の暮らしと文化を“噛みしめる”ことでもあります。
訪れる際は、ぜひ一杯一杯に込められた背景にも思いを馳せながら、地元の味を楽しんでみてください。
吉田うどんの関連動画
参考文献・参考サイト一覧
- 農林水産省|うちの郷土料理「吉田のうどん(山梨県)」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/yoshida_no_udon_yama_nashi.html - 富士吉田市観光ガイド「吉田のうどん特集」
https://fujiyoshida.net/feature/udon/index - 富士吉田市観光ガイド「うどんマイスター制度」紹介ページ
https://fujiyoshida.net/feature/udon_master/index - DELISH KITCHEN「吉田のうどんの作り方レシピ」
https://delishkitchen.tv/recipes/341115756223660326 - 平井屋公式サイト「吉田のうどん 通販・お土産商品」
https://www.hiraiya.jp/recipe.html - 岩田食品(道の駅 富士吉田 取り扱い製麺所)
https://iwata-food.com - 食品ビッグローブ「吉田のうどん 通販人気ランキング」
https://food.biglobe.ne.jp/rankings/12205/ - Rettyグルメ|吉田のうどん人気店まとめ
https://retty.me/area/PRE19/ARE259/SUB25901/LCAT5/CAT60/ - 食べログまとめ「山梨県・富士吉田のうどん人気店10選」
https://tabelog.com/matome/13054/ - PORTA山梨|吉田のうどん徹底ガイド
https://www.porta-y.jp/sightseeing/yoshida-udon - 甲州夢小路「ほうとうと吉田のうどんの違い」
https://koshuyumekouji.com/news/766/ - うどん観光大使公式サイト「吉田のうどん vs ほうとう」
http://udonkankoutaishi.client.jp/vs/ - じゃらんニュース|富士吉田の人気うどん店
https://www.jalan.net/news/article/182705/ - 公式通販サイト「すりだね本舗」商品紹介ページ
https://shop.suridane.com/items/76389528
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