山梨の郷土料理「ほうとう」とは?
「ほうとう」は、山梨県を代表する郷土料理で、小麦粉を練って作った幅広の麺を、季節の野菜とともに味噌仕立ての汁で煮込んだ素朴な料理です。地元では「ほうとうを食べずして山梨を語るなかれ」とも言われるほど、県民に愛されています。
特徴的なのは、うどんやそばと異なり、生麺をそのまま具材と一緒に煮込む点です。これにより汁にとろみが出て、冷めにくく、寒い時期にぴったりな一品になります。
また、ほうとうの麺は塩を練り込まずに作られるため、うどんのような強いコシはありませんが、そのぶん煮込みやすく、野菜のうま味がしっかりと染み込むのが魅力です。

ほうとうの由来と歴史、信玄との関係
🏯 戦国武将・武田信玄と「ほうとう」

「ほうとう」の起源については諸説ありますが、山梨県では武田信玄が陣中で部下にふるまった煮込み料理が原型となったという伝承が特に有名です。
信玄の家臣であった高井高白斎による記録『高白斎記』や、武田家の軍記物『甲陽軍鑑』などには、「陣中で煮込み料理や麺類(麺子:めんす)が供された」との記述があり、戦場でも粉食文化が活用されていたことがうかがえます。
また、武田家の屋敷跡からは、粉を挽くための道具が多数出土しており、小麦や雑穀を使った食文化が地域に根付いていたことがわかります。
ただし、「ほうとう」という名称自体が信玄の時代に用いられていたことを示す一次史料は発見されていません。これは、信玄と「ほうとう」の関係があくまで後世に形成された伝承であることを意味しています。
📚 名称の由来:「餺飥(はくたく)」から「ほうとう」へ
「ほうとう(餺飥)」の語源は、中国由来の麺料理「餺飥(はくたく)」にあるとされます。餺飥(はくたく)は、中国・北魏時代(6世紀)の農業技術書『斉民要術』に記載された、小麦粉を手で薄く延ばして作る中国古代の煮込み麺料理です。奈良〜平安時代の辞典『和名類聚抄』や『枕草子』にも登場し、室町時代の『頓要集』には「ハウタウ」との記述が見られます。
このように、中国から伝わった「餺飥」が時代とともに日本風にアレンジされ、読み方も変化し、やがて山梨の地で「ほうとう」と呼ばれるようになったと考えられています。
🏞 郷土食としての定着
山梨は山が多く、稲作に不向きな地形と気候により、古くから麦や蕎麦などの雑穀栽培が盛んでした。こうした背景の中で、保存のきく味噌と根菜、そして小麦粉を活用した「ほうとう」は、地元の人々の日常食として定着していきます。
特に冬季には、根菜類を使った味噌仕立ての温かい煮込み料理として重宝され、冠婚葬祭などの「ハレの日」にも登場するなど、山梨の暮らしに根ざした文化となりました。
吉田うどんとの違い
山梨県の麺料理としては「吉田うどん」も有名ですが、「ほうとう」とは次のような違いがあります。
特徴 | ほうとう | 吉田うどん |
---|---|---|
麺の幅 | 太くて平たい | 中太・非常にコシが強い |
麺の製法 | 塩を入れず練る | 塩を入れて強く打つ |
調理法 | 味噌仕立てで煮込む | 醤油・味噌ベースのつゆで提供 |
主な具材 | かぼちゃ、根菜、キノコ類など | キャベツ、にんじん、馬肉など |
提供スタイル | 煮込みうどん | 一般的な温・冷うどん |
「吉田うどん」は富士吉田市を中心とした地域で発展したのに対し、「ほうとう」は山梨県全域に広がった郷土料理です。
ほうとうに欠かせない具材と味わい

ほうとうの魅力は、なんといってもたっぷりの野菜。主な具材としては、かぼちゃ、里芋、人参、白菜、椎茸、しめじ、じゃがいも、ねぎ、玉ねぎなど、多種多様な旬の野菜が使われます。
特にかぼちゃは、「うまいもんだよ かぼちゃのほうとう」と地元で言われるほど重要な存在。煮込むことで甘味が溶け出し、甲州味噌の塩味と絶妙にマッチして、深いコクのある味わいを生み出します。
🥢 自宅で作る簡単ほうとうレシピ(4人分)

材料(4人分)
- ほうとう用生麺:400g
- かぼちゃ:1/4個(種と皮を除き一口大に)
- 人参:1本(薄切り)
- 里芋またはじゃがいも:2個(乱切り)
- 白菜:1/4玉(ざく切り)
- 長ねぎ:1本(斜め切り)
- しめじ:1パック(小房に分ける)
- 油揚げ:1枚(短冊切り)
- 水:1200ml
- だしの素:大さじ1
- 味噌:大さじ4〜5(お好みで調整)
作り方
- 鍋に水とだしの素を入れ、火にかける。
- 煮えにくい野菜(かぼちゃ・人参・里芋など)から順に加え、中火で煮る。
- 野菜が柔らかくなったら、きのこ・白菜・油揚げを加える。
- 味噌を溶き入れて味を整える(味噌は少量ずつ溶きながら加えると失敗しにくい)。
- 最後にほうとうの生麺を入れ、5〜7分ほど煮込む。麺が柔らかくなれば完成!
ポイント:
- 麺は煮込みすぎると溶けやすいため、様子を見ながら加減を。
- 味噌は赤味噌や合わせ味噌を使うと、より「甲州らしい」味わいになります。
夏に食べたい冷たい「おざら」

「ほうとう」はもともと冬の料理として親しまれてきましたが、近年では季節を問わず提供する店も多く、暑い夏には冷たいバージョンの「おざら」が登場します。
「おざら」は、ほうとうの麺を冷水でしめ、醤油ベースのつゆにつけて食べるスタイル。さっぱりとした味わいで、暑い季節でも食が進みます。
🍜 暑い季節にぴったり!「おざら」簡単レシピ(2〜3人分)

材料(2〜3人分)
- ほうとう用生麺:300g
- きゅうり:1本(千切り)
- にんじん:1/3本(千切り)
- 長ねぎ:1/2本(白髪ねぎや小口切り)
- みょうが:1個(薄切り/お好みで)
- 大葉:2〜3枚(千切り/お好みで)
- ごま・七味・刻みのり:お好みで
つけつゆ材料(希釈タイプ)
- めんつゆ(3倍濃縮):100ml
- 水:200ml
- だしの素(あれば):小さじ1/2
- おろし生姜:少々
※好みで冷たい豚しゃぶ、天ぷらなどを添えても美味しい
作り方
- たっぷりのお湯で、ほうとうの麺をやや長めに茹でる(約10〜12分)。
- 茹であがった麺は冷水に取り、しっかりとぬめりを洗い流す。氷水で冷やして締めると◎
- 麺をよく水切りして皿に盛り、千切り野菜を添える。
- つけつゆの材料を混ぜ、冷やしておく。器に入れて麺につけて食べる。
ポイント:
- 生姜やみょうが、大葉などを加えることで、清涼感がアップ
- 「具なし」でも十分美味しく、食欲が落ちる時期にもぴったり
- 麺が太くコシがあるので、冷やしても食べごたえあり!
「ほうとう」有名店・観光と結びついた文化
武田信玄と「ほうとう」の伝承は、近代になって観光や郷土文化振興と結びつき、さまざまな場所で語られるようになりました。現在では以下のような有名店が、観光とともに人気を博しています:
ほうとう不動(ふどう)
ほうとう不動は「ほうとう」の専門店で地元や観光客に高い人気を誇ります。河口湖周辺に複数の店舗を構え、「東恋路店」「駅前店」「本店」などがあります。名物の建築や行列の絶えない人気ぶりも話題。特に「ほうとう不動 東恋路店」は、雲をイメージした独特な建築デザインが特徴です。オープンエアーで自然通風を活かしたエコロジカルな空間となっており、四季折々の富士山の景色とともに食事が楽しめます。店内は蔵を改装したような趣ある造りや、戦国時代を思わせる鎧兜の展示、大きな提灯など、歴史と地域色を感じさせる演出がなされています。
小作(こさく)
小作(こさく)は「ほうとう」の老舗専門店で、県内外に多店舗展開しています。ほうとう小作の最大の特徴は、ほうとうのメニューが非常に豊富なことです。かぼちゃほうとう、豚肉ほうとう、鴨肉ほうとう、海老天ほうとう、キムチほうとうなど、バリエーションが多彩です。ほうとう以外にも定食や一品料理があり、ほうとうが苦手な人でも楽しめるラインナップです。味付けは昔ながらの山梨の味で、やや濃いめの味噌仕立てが特徴です。
歩成(ふなり)
歩成(ふなり)は、山梨県のほうとう専門店で、「ほうとう味くらべ大会」三連覇・殿堂入りの実績を持つ人気店です。山梨県内に本店(山梨市)や河口湖店、山中湖店など複数店舗を展開しています。歩成の名物は「黄金ほうとう」。かぼちゃペーストを味噌とブレンドした特製「黄金味噌」と、無添加自然出汁、厳選された新鮮野菜、山梨ブランド豚「山梨ワイン豚」などを使用しています。
通販で楽しむ「ほうとう」【楽天市場】
遠方にお住まいの方でも、自宅で手軽に山梨の味を楽しめるよう、通販も多数展開されています。
お取り寄せして、地元の味を家庭でも再現してみましょう。
まとめ
山梨県の郷土料理「ほうとう」は、地域の風土と暮らしから生まれた、栄養満点の煮込み麺料理です。冬に体を温める一品としてはもちろん、夏には冷たい「おざら」としても親しまれています。
観光地・河口湖の名店巡りや、自宅で楽しむ通販レシピまで、多彩な魅力をもつ「ほうとう」をぜひ体験してみてください。
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