岩手県の郷土料理「わんこそば」とは
「わんこそば」は一口に小分けされた温かいそばを「わんこ(お椀)」に入れて薬味と一緒に食べる料理で、岩手県盛岡市と花巻市を中心とする郷土料理です。
一口に小分けされているので何杯でも食べ続ける事を前提としており、小分けにされたそばは10~15杯程度で一般的なそばの1人前の分量になります。
たくさんの分量を食べてもらえる様にそばの麺にも工夫がされており、小分けにし易いように通常の麺より長く切られ、喉越しが良くなっています。
麺つゆは濃い目に味付けされていますが、かけそばの様にたっぷりのつゆが出てくるわけでなく、一口に小分けされたそばはそれぞれあらかじめ麺つゆにくぐらされているので、ぼそぼそとした食感ではなくのど越しよくツルッと食べる事ができます。
もちろん麺だけをひたすら食べ続けるのも大変なので、変化が加えられる様に薬味には様々なバリエーションがあります。
ネギ、のり、鰹節、とろろ、天ぷら、イカの塩辛、まぐろ、納豆、大根おろし、なめこおろし、そぼろ、わさびなど好みに応じて好きな量を適宜そばにいれます。
「わんこそば」の発祥・由来
「わんこそば」の発祥には諸説ありますが、発祥の地とされる花巻市と盛岡市に関係しています。
まず花巻説は江戸時代に南部氏27代の南部利直公が上京する際に花巻に立ち寄り、そこで出された少量のそばを大変気に入り、何杯もお代わりした事を由来するとする説です。
蕎麦は当時から花巻で作られていましたが、殿様のお口に合うかわからずに恐る恐る少量のそばを小皿に入れて差し上げたようです。
又、殿様への料理を丼に入れて出すのは失礼と考えて漆器のお椀(わん)に入れて出したようです。その蕎麦を利直公は美味しいと喜んでお代わりした事から、花巻の名産として「わんこそば」が広まったのではないかといわれています。
次に盛岡説は平民宰相と呼ばれた第19代内閣総理大臣の原敬が出身地の盛岡市に帰省した際に蕎麦を食べて、「そばは椀こに限る」といったのが由来とする説です。
いずれの説も歴史上の大人物が関わってきますが、盛岡でも花巻においても当時から蕎麦の栽培が盛んであったことは間違いありません。
「そば振る舞い」の風習
そして、歴史上の人物というより岩手に伝わる風習である「そば振る舞い」が由来とする説もあります。
岩手では昔から冠婚葬祭などの宴会で最後の締めにそばをたくさん振舞うという風習があります。
岩手では昔は米より蕎麦の栽培が盛んで、寒くて雪が多い土地柄では米は十分に育たず、宴会でも満足にご飯を振舞う事ができませんでした。
それでもお客にたくさん食べてもらって満足して帰ってもらいたいと考え、米ではなく蕎麦をたくさん用意したのです。
とはいえ、蕎麦となれば茹でなければならず、冷えた蕎麦ではなく温かい蕎麦ともなれば、一度に大量に茹でる事もできません。
宴会の出席者が50人とも100人ともなれば、全員に1人前ずつ茹でていては相当な時間が経ってしまいます。
1人前をきっちり順番に出していては最初に出される客は良くても、最後に出される客は待ちくたびれてしまいます。
そこで、1人に1人前の分量をきっちりと出すのではなく、何回にも分けて少量ずつの蕎麦を出してお代わりしてもらう事で、提供する時間を短縮するに至ったという訳です。
そうして大人数分の蕎麦をゆで続けて何回にも分けて出すことで、皆がお腹一杯になるまで食べる事ができ、満足して帰れるのが「わんこそば」なのです。
「わんこそば」の食べ方
「わんこそば」といえば全国的に知られた料理ですが、郷土料理というより早食いや大食い大会の料理として知名度が高いです。
メディアなどでは一列に並んだ何人もの大食漢が目にもとまらぬ早さで次々と「わんこそば」をかき込んでいきます。
大食漢の傍には給仕と呼ばれる「わんこそば」を次々と入れる方が付き、平らげられた「わんこ(お椀)」が大量に積み重ねられていきます。
給仕の威勢の良い掛け声と共に彼らはテンポよく「わんこそば」を食べていきますが、その様子はまさに「わんこそば」の食べ方なのです。
そうした食べ方は実際の「わんこそば」を提供する店舗でも行われています。「わんこ(お椀)」に盛られた一口のそばを給仕の「はい、じゃんじゃん」、「はい、どんどん」といった威勢の良い掛け声と共に何杯も食べ続けます。
一つ一つの「わんこ」を空にする度にすかさず次のそばが投入されますので、休む間もなく食べ続けなければなりません。
「わんこ」10~15人前ほどで一般的な蕎麦の1人前なので、大人の男性なら100皿を平らげる事も珍しくありません。
岩手では「全日本わんこそば選手権」なるものが毎年開催されていますが、1996年には時間制限ナシでなんと559杯も食べた記録があります。
そうしてどれだけ多くの数を食べられるかが注目される「わんこそば」ですが、もちろん一般人の方が無理してまで食べる必要はありません。
「わんこそば」の食べ方には終了の合図があって、それはお椀の蓋を閉じる事です。何十杯も食べたけどもういい加減無理という場合は、お椀の蓋をすかさず閉じれば良いのです。そうすればそれまでどんどんそばを投入してきた給仕は動作をストップします。
ただし、給仕が代わりのそばを取りに席を外していたり、お椀にそばが残っていたりすると無効になってしまい、またそばを入れられてしまい食べなければなりません。なんとも容赦のない「わんこそば」の食べ方ですが、見ている方はなかなか面白いものです。
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